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魅惑の擬似バカンスをご堪能下さい

百合 小説 GL モルディブ アンガガ

投稿日:16/07/2018 更新日:

美月は気付いていたのだろうか? その中の数人と、あたしが肌さえ合わせていた事を。
美月を抱いた腕を
美月と合わせていた唇を
あたしは彼女の男の体を隔てて、その温もりを求めたのだ。
【小説紹介文】

百合 小説 GL モルディブ アンガガ

リスク(アンガガ)1/2

空との境界線が曖昧な水平線。それは混ざり合ってひとつの風景に見える。完璧なまでに美しく溶け合った南の島の蒼い色彩達。けれども、それは錯覚なのだ。
天と地ほどの差。
その言葉の通り、手が届かない程遥かな距離。
空と海は混ざり合うことはない。
まるで、あたし達。

リスク(アンガガ)

「上手く出来ない」

あたしは拗ねた視線で美月に助けを求めた。南の島に相応しく、背中の大きく開いた涼しげなサマードレスに合わせ髪を編み込もうとしたのだが、失敗の繰り返しなのだ。

「もう、髪をまとめるのだけケイは不器用ね」

白い手が伸びてきて、あたしの髪をすくいあげる。そして鏡台の前にあるブラシを手にすると、美月は髪から抜き取った黒いピンを口の端に咥えた。

鏡台のミラー越しに、その形の良い唇をじっと見詰める。美月、綺麗になった。それは薬指に輝いている婚約指輪のせいだろうか。

 

独身最後の気ままな旅行に行きたいと、言い出したのは美月だった。昔、目にした事のある、あたしのアルバムの蒼い海を見てみたいと。

『美月はダイバーじゃないんだし、モルディブのリゾートを楽しむのならカップルで行く場所よ』

あたしは苦笑いしながら言った。

『ハネムーンで行ったら?』

『ハネムーンはフランスって、もう予約をしちゃったんだもの』

お願いって美月はあたしのニットの裾を摘んだ。

『ケイだって、もう一度行ってみたいなって言ってたじゃない。ほら、カタマランヨットで行ったあの島』

アンガガの事だ。

その話をしたのは三年も前になる。よく覚えていたなと感心した。

大学のグループ卒論を、あたしの部屋に泊り込み、二人でまとめていたあの時、ベッドの下に無造作にしまい込んでいたアルバムを美月は見つけたのだ。

高校を卒業した春にバイトのお金をはたいて、モルディブにダイビングのライセンスを取りに独り旅をした時の写真。美月が見つけたアルバムはその時のものだった。

『ケイちゃん、かっこいい……』

彼女は羨望の眼差しであたしを見た。

『こんな遠くに独りで行けるなんて、すごいよ』

美月は真っ黒に日焼けしたそのアルバムのあたしと、目の前のあたしを何度も視線を往復させては比べている。

『この島に泊まったの? こんな綺麗な海、信じられない』

『あぁ、そこは泊まった島じゃないの。ダイビングスタッフがカタマランヨットで遊びに連れて行ってくれたアンガガって名前の島』

ヨットの前で並んで写っているモルディブマンの写真を懐かしい気持ちで眺める。デート、デートと彼は、はしゃいでいたっけ。

『ふーん、怪しいな』

素朴な笑顔で写真に焼きついた南国の男を指差しながら、美月は疑い深そうにそう言った。

なぁんにも』

あたしは素知らぬ振りを通した。

 

そんな美月の希望をかなえて、二日日前にあたしと美月はアンガガに着いた。十八歳の春以来、七年もの歳月が経っていた。あの頃には無かった水上コテージが、時代の流れを感じさせた。
だけど、アンガガへと向かう水上飛行機から眺めた海と島の色彩は、あの頃と何も変わらないものだった。

あたしと美月は小さな飛行機の窓に頬を寄せ合って、息を呑む程に美しい環礁を言葉もなく眺めていた。

インド洋の真珠の首飾り。そう比喩されるに相応しい島々の空中遊覧。

けれども、その触れ合う美月の頬が、柔らかくて、くすぐったくって。その感触をこの風景と共に心に深く刻み込んだのだ。

 

「はい、出来たよ」

ふわふわと、結い上げた髪をルーズに散らして、美月は最後のピンをそっとあたしの髪に差し込んだ。

「ケイの髪は柔らかくて細くて綺麗な髪ね」

鏡越しに優しく微笑みかけてくる。

美月だって……その言葉を飲み込んだ。アイツが、美月をそんなにも磨き上げ輝かせたのだろうか? 男の人がくれる幸せって、そんなにも女を変えてしまうものだなんて、あたしは知らなかった。

今まで誰よりもあたしが美月の傍にいたのに、誰よりもあたしが美月を知っていたのに。 結婚をしたら、彼女は離れてしまうのだろうか。

あたしの存在ってどうなるのだろう。あたしには美月しかいないのに。彼女を手放してしまったら、どうやって生きていったらいいのだろう。

「ケイ、あたしこの指輪とっても気に入っているの。ありがとうね。あんな値段で本当にいいのかって、的場さん驚いていたよ」

薬指のエンゲージリングを、愛しそうに美月は撫でた。

そのリングをデザインしたのはあたしだ。九月の誕生石、サファイヤ。

「職場でジュエリー好きの子がこの指輪を見たらね、スターサファイヤじゃないって。コレって普通のサファイヤとは違うの?」

あたしはそっと美月の指を手のひらに乗せた。

「ほら、よく見て、石の真ん中」

少し眉間に皺を寄せて、じっとその石を彼女は覗き込む。

「三本の白い線が交差して星みたいに光っているでしょう? 昔から、この交わった美しい光の線に、信頼・希望・運命が宿っているって言われているそうよ」

モルディブのあおいゼリー色の海が、光の届かない深海へと濃くなっていく。そんな色の石。
他の仕事を放り出して、あたしはその指輪のデザインに時間を費やした。この石のイメージと、華奢な美月の指を繰り返し何度も重ね合わせた。

「素敵だね。あたしには、勿体無い」

「何、言ってるのよ。このあたしが、美月のイメージでデザインしたのよ。あんたにしか似合わないんだから」

美月は嬉しそうに微笑んで、子猫の頭を撫でるようにそっとその石に触れた。

大学の造形科を出た後、ジュエリー関係の仕事に進んだ。運もよかったのだろう。コンテストで幾つかの賞を受賞し、来年自分のアトリエを持つ予定になっている。

でも、こんなにも想いを込めてリングを作った事があっただろうか? 受け取りにきた美月の婚約者の的場に『お金要らないから』と言ったら、『ケイからのプレゼントじゃエンゲージリングにならないよ』と、困った顔をされたのだ。

 

大学時代、ケイは素敵な夢があって羨ましいと、美月に言われた事があった。

『美月にだってあるでしょう? 何かひとつくらい』

『普通のお嫁さん……』

本当に恥ずかしそうに彼女は言った。

『あたし、ほら両親が離婚しているから、すごく普通の家庭に憧れるの。好きな人のお嫁さんになって幸せに暮らす事、それがあたしの夢。つまらないでしょ?』

言葉に詰まった。その飾らない素直な夢は、あたしの心を揺さぶる力を持っていたから。

『じゃあ、いい男を捕まえないとね』

美月を覗き込みながらあたしは言った。

『あたしが見極めてあげるよ。美月を幸せに出来る男かどうか』

あたしはその言葉を実行した。美月の彼氏のレベルまで行き着いた男の全てに、罠を仕掛けて値踏みしたのだ。

最初の一人目。

見極めてあげると約束した大学も卒業間際、既にその男と美月は付き合って半年が経っていた。 美月は結構もてたのだ。目立った存在ではなかったが、その落ち着いた物腰は、派手な女の子が多い美大の中では逆に男にとってそそられる存在だったのだろう。黒く長いストレートの黒髪も、百合の花のように凛としたたたずまいも、この時代には逆に人目を引くものだった。軽い感覚ではなく、真剣に彼女にしたいと希望する男は結構いたのだ。

両親の離婚で父親と離れて育った影響もあるのだろうか。美月は男に関して意外と淋しがり屋だった。だから、常に彼氏と呼ばれる存在が彼女にはいたのだ。どれくらいその男達に思い入れがあるのかは、その時々だったが。

あたしが、罠を仕掛けた最初の男と美月は、結構上手くいっていた。けれど、その男が彼女の隣にいるあたしを、ちらちらと盗み見ている事になんて気付いていた。

ミスK大。大学の美人コンテストに出た訳でもないのに、そんな勲章を勝手ににつけられていた。ハーフなの? 勝手な勘違いをされ、違うと言っているのに繰り返し同じ質問を他人から聞かされていた。

だから、美月の彼氏のそんな視線も、別に珍しい事ではないから今までは気に留める事もなかったのだ。だけど……。

"あたしが見極めてあげる"

そんな風に誓ったあの日を境に、彼は失格者として淘汰しなければならない存在になったのだ。簡単だった。美月を愛しているなんて口先だけだ。この男に愛なんて言葉は高尚過ぎる。

『美月には内緒にしてね』

甘えるような視線で誘いを掛けると、躊躇もせずにあたしを部屋に連れ込んだ。夢みたいだ……。そんな言葉すら漏らして、あたしにキスをしてきた。

 

『彼は美月を幸せになんて出来ないよ』

あたしはキャンパスの学食で、唐突に美月にそう言い放った。

最初、彼女はあたしが何を言わんとしているのかが理解出来なかったらしく、きょとんとした目でこちらを見返した。あたしは携帯で撮った男の部屋を、彼女に証拠品として差し出したのだ。

『ケイ、彼に何したの?』

『本物チェック。アンタを本当に幸せに出来る男かどうか』

『あたしがケイにかなうわけ無いじゃない。男だったら皆、ケイを選ぶよ……』

美月の握っていたフォークが小刻みに震えていた。

『面白いでしょう? 人の男が、自分に心変わりをしていく様子を眺めるのって』

美月にしては珍しくきつい口調だった。そして、目の端に涙を浮かべて、こちらを睨みつけてきた。あたしは瞬きもせずに彼女のその視線を受け止めた。そして真っ直ぐに見返しながら言ったのだ。

『だって美月は本物が欲しいんじゃないの? 見極めてあげるって約束したでしょ』

ガタンと、周りが振り向くような音を立てて、美月は立ち上がった。そして一口しか手をつけていないランチのプレートを残して、あたしの横を通り過ぎて行った。それから、卒業するまでの二ヶ月を、あたし達は口もきかずに過ごした。何度かその男からのしつこいお誘いがあったが、あたしは完全に無視を通した。

美月の視線はごく自然な様子で、あたしの存在を素通りした。だから彼女と同じようにする事を努めた。もう戻ってこないかもしれないという不安はあったが、きっと美月にはあたしの言動の意味が伝わると信じていた。

そしてある日突然、美月はあたしの元に戻ってきたのだ。青い顔をして、アパートの玄関前で膝を抱えて座っていた。

『連絡してくれればいいのに』

慌てて冷え切った美月の手を取って、立ち上がらせた。そして部屋に招いて、美月の好きなココアを、美月の好きなカップに入れ、何も言わない彼女の前にコトリと置いた。

その白いカップを両手に挟んで、口を付けないでしばらく手のひらを温めると、ココアが蒸発する湯気をほんの少しだけ揺らして美月はポツリと呟いた。

『ケイの言う通りだった……』

『そう』

それだけ短くあたしは答えた。もう何も言わなくていいからって視線を投げて。

『ごめんね……』

美月はすがるような目で訴えた。

『ケイ、あたしの事嫌いになったでしょう?』

『馬鹿だね』

泣き出しそうな美月の頭を、優しく撫でてあげた。

『約束したでしょう? 美月の夢を叶えるって』

 

それから、美月はあたしに協力さえした。
美月の彼氏という立場が慣れてくるその頃に、本物の幸せを与えられる男の素質があるかどうか罠を仕掛ける為の段取り。美月はそれが当たり前くらいの感覚で、あたしが入り込む隙を作る協力さえしたのだ。

あたし達の試験にパスする男はそうそういなかった。一瞬、拒絶の態度を示す男もいたが、ほんの数日の沈黙の後、結局はあたしに手を伸ばしてくるのだ。

『ケイじゃレベルが高すぎるかな』

イエスかノーの短い結果報告に、美月は苦笑いを繰り返した。

あたしがどんな罠を仕掛けたか、詳しい話を彼女は問わなかった。だからあたしも言わなかった。

美月は気付いていたのだろうか? その中の数人と、あたしが肌さえ合わせていた事を。

美月を抱いた腕を、美月と合わせていた唇を、あたしは彼女の男の体を隔てて、その温もりを求めたのだ。

ほんのひとときの嘘にまみれた情事の後、その男達に失格の烙印を焼き付けていった。

女が好きな訳じゃない。男が苦手な訳でもない。ただ美月が好きだった。美月の為ならどんな事でも出来た。これを愛だなんて言ったら罰が当たるだろうか? だけどそれが、あたしの全てだった。

なのに、アイツが現れたのだ。

社会人になってからも、美月とは職場が近い事もありよくランチに出掛けた。 美術館に勤めている美月の口からは、美術鑑定士の的場という名がよくこぼれた。

そろそろいいんじゃない? あたしになかなか会わせたがらないその様子に嫌な予感を感じた。
ピリオドを打つのが惜しいかのように、美月は的場を連れては来なかった。だけどその日は来たのだ。

『ケイ、彼に会ってくれる?』

『あら、随分時間がかかったものね』

初めて的場の名前を耳にしてから、一年近くが経っていた。

『この前、的場さんに結婚しようかって言われたの』

さりげなく『そう』言うと、美月から視線を反らした。頭から血の気が引いて、店の中で流れているジャズの音が遠のいていった。

大丈夫。心の中で自分に言い聞かせてみる。いつもと同じだと。

『彼といるとすごく安心する。今までと違うの』

のろけた事を口にしながらも、不安そうな美月の顔。

『的場さん、本物だといいな』

 

初めて、的場を観察して、この男は掴みどころがないと思った。

閉館間際の美術館の館内で、食事に行く待ち合わせをしていた。三人で初めての顔合わせだ。あたしは自分のデートよりも気合を入れて装い、約束の時間より一時間近くも前に美術館に着いていた。百合を描いた静物画を、ぼんやりと眺めていると、いつの間にか男が隣に立っていた。

人気がまばらな館内で、こんなに傍で閲覧するのは不自然というものだ。睨むくらいの視線で一瞥すると、男は『やっと会えたね』と人懐こい笑顔を向けてきた。きっとあたしは眉間に皺を寄せて、怪訝な顔をしていただろう。こんな男、知らない。何が可笑しいのか、男は笑顔のままだ。

背の高いがっしりとした体。鍛え上げられた筋肉が見て取れる。その体つきに似合わない、少年のような顔立ち。けれど、笑顔の目尻にわずかに刻まれた皺が、二十代の男ではない事を物語っている。

『ケイちゃんでしょう? 俺、的場です』

ナンパでもされているのかと思っていたあたしに、不意打ちのような自己紹介だった。

 

 

アンガガのサンセットタイムが始まる。

ドレスアップしたにも関わらず、二人でサンダルも履かずに裸足で出掛けた。

この島には裸足が似合う。レストランの中にまで、さらさらの真っ白いパウダーサンドが敷き詰められているのだ。

夕日を見ながらバーで一杯。それが、この島での習慣になっていた。

あたし達は水上コテージの先端にある、サンダウンバーに向かって歩き始めた。海の上にぽっかりと浮かぶ水上バー。そこで眺める夕日は、少しだけ太陽に近づけた錯覚さえするのだ。

すれ違った顔馴染みのホテルスタッフが、人懐こい笑顔で話し掛けてくる。フルムーンだから今日は特別にビーチにバーがあるよと教えてくれた。

ビーチにバー?

ワクワクしながら方向を変えて、ビーチに向かって歩き始めた。ふかふかの砂浜の上に、映画のセットのようなバーが出来上がっている。既に、ドイツ人がゆったりとした椅子にも垂れて、ビールを飲んで陽気に笑っていた。

どの席にしようか? 一番端っこの、まだ人気のないテーブルを選んだ。いそいそとウェイターが、注文したグラスを運んでくる。グラスを置いた後も、親しげに話し掛けてきて、テーブルを離れようとしない。しかも、気が付くと、ウェイターがもう一人嬉しそうに歩み寄って来る。

日本人の女の子の二人旅。彼等にとっては、そそられる存在なのだろう。同じアジア人という親近感もあるのかもしれない。誘うような視線のモルディブマンに、あたしは英語でぴしゃりと言った。

「邪魔しないでね。あたし達、恋人同士なんだから」

オー、と大袈裟に一人は頭を抱える仕草をした。イスラム教徒の彼等には刺激が強かっただろうか?だが、残りの一人は人差し指をチッチと振って、嘘を言っても駄目だよ、というリアクションをした。そして、得意そうにその証拠品として、美月のリングを指差したのだ。

目ざとい奴。

彼の耳元に唇を寄せ、あたしは囁いた。

「その指輪、あたしの贈り物よ」

そして、自分の耳に埋め込んだピアスを指差してみせた。その石を見比べると、二人は肩をすくめて去っていった。

「ケイ、そのピアス……」

「小ぶりのいいサファイヤがあったから作ったの」

コテージを出る間際に差し込んだピアスに、美月はやっと気付いたようだった。

「えっと、ペアルック。女二人で揃えても意味無いかな?」

悪戯を見つかった子供のように、早口であたしは続けた。

「これ、後で美月にあげる。指輪に合わせて使ってよ」

「ううん。お揃いがいいの。ケイが使って。ね?」

そう言うと、あたしの耳にそっと触れてきた。

「誘惑が多いから、あたし達、本当にカップルって事にしようか?」

美月はそんな事を悪戯っぽく囁いて、笑いを堪えながらあたしの腕に指を絡めてきた。周りから見たら間違いなくそういう関係に見えるだろう。

日本だったら出来ないことが、こんなヨーロッパ人ばかりの南の島なら、違和感なく振る舞える気がした。

その指の感触はこの上なく甘美で、あたしはこの素朴な極上の楽園で、幸せを噛み締めながら夕日を眺めたのだ。

 

続き
百合 小説 GL モルディブ アンガガ 2/2

 

ケロンパは基本8日+三食付で20万程度をいつも探します。
♥︎ ハネムーナーはゴージャスな水上コテージも素敵♥︎

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