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バージン 初めての男 小説 無料 アンサナ モルディブ 2/2

投稿日:04/08/2018 更新日:

ママの恋人1/2

ママの恋人(アンサナ)2/2

波打ち際を足を濡らしながら歩く。

沢木は『飲ませ過ぎたかな』と独り言のように呟くと、あたしの後をついて回った。

『雨が降りそうだからコテージに帰ろう』

そう肩に触れてきた沢木の手を振り払うと、ビーチの上に寝転んでみる。

冷たい砂の感触。目の前の穴から、小さな白い蟹が顔を覗かせている。

風が強くなって、さっきまでの星空が灰色の雲で覆われていた。

『酔っ払ってなんていないわ。楽しいだけよ』

『酔っ払っていないって言う奴が、酔っ払いって決まっているんだ』

沢木は手を伸ばしてきた。

あたしは立ち上がる振りをすると、その手をおもいっきり引き寄せた。

体の大きな沢木が、面白いくらいに簡単にバランスを崩してあたしの脇に倒れこんできた。

『ひどいな、砂まみれだ』

大の字になって、ふて腐れたように沢木は横になった。

その脇で頬杖を突いて、彼を覗き込む。

沢木があたしを見詰め返してきた。

彼も少しは酔っているのだろうか?

こちらをじっと見据えている。

彼は自分のひざに重なったスカートの裾を、そっと指でなぞってみせた。

このドレスを身に付けたママと、どんな夜を過ごしたのだろう?

『君は‥顔はあまり似てないけれど、仕草はママに似ているね。母娘ってそういうものなのかな?』

『いや、この細い髪はママ似かな?』

そっと、髪を撫でられる。

その温もりに、あたしは反応した。

沢木の睫毛が目の前で揺れている。

口付けの距離。

合わせた唇からは、甘いシャンパンの香りがした。

“この泡に恋の儚さを語る人もいる”

今だけでいい、この夜だけでいい。どうしても必要だった。

ママにはわかるでしょう?

だから一晩だけ、彼をあたしに貸してよ。

沢木があたしの身体をそっと押しのけた。

そして、落ち着いた声で咎めた。

『悪いけど、子供は趣味じゃないんだ』

その冷静さにあたしは傷付いた。

告げ口するような嫌らしさ。だけど、酔いが回った頭で歯止めが利かなかった。

『子供‥そうね、いい事を教えてあげるわ。あたし、本当の娘じゃないのよ。
どこも似てないでしょ?12の時にパパがあの人と結婚した。ただそれだけ。
だから無駄よ、ママの面影をあたしに探しても』

ポーカーフェイスの沢木が初めて見せた動揺に、笑いが込み上げてくる。

『‥じゃ、君の本当のママは?』

『再婚して海外に住んでるわ。向こうで頑張って子供も産んで新たな人生ってやつ。
あたしの存在なんてパパとの結婚と同じで、人生の汚点なんじゃないかしら』

沢木は押し黙ったまま、ただ悲しげな視線を向けてくる。

『どうしたの?そんな顔して‥。あぁ、同情ってやつ?別にお涙頂戴の身の上話している訳じゃないのよ』

睨むように視線を絡ませる。

重い沈黙を遮るように、突然空の向こうで雷鳴が響いた。

息がかかるような距離まで近づくと、男を女が誘うような隙間に、そっと滑り込んで沢木を見上げてみる。

そして吹きつける風音に掻き消されないよう、彼の耳元に唇を寄せて、内緒話の続きをはじめた。

『あの人、ずっとパパの愛人だったわ。離婚するって決まった時、あたし絶対パパについていくって言い張ったの。
どうしてって?だって、あの人だけ幸せになるなんて許せなかったから。邪魔してやろうと思ったからよ』

『その計画は上手くいったの?』

『全然っ。呆れちゃうくらい仲がいいのよ。あの人も、あたしの事、年の離れた妹が出来て嬉しいくらいな感じで‥変な人よ』

カチッ

沢木が煙草にともした灯が、薄暗い闇の中、蛍のように浮き上がる。

「俺さ、麻理さんが亡くなる一ヶ月前、彼女にプロポーズしたんだよね」

突然話の方向を変えるように沢木がそんな話を始めた。

興味をそそられたあたしは、風音のせいにして、彼との隙間をさらに狭めて耳を傾けてみせる。

『まだまだ当分無理だって。娘がお嫁に行って、幸せになるのを見届けてからじゃないと。それまで待てるかって言われた』

幸せを見届けてから‥

『馬鹿ね、そんなの待ってたらおばあちゃんになっちゃうじゃない。やんわり断られただけよ、あなた』

『いや。俺、待つって言ったんだ』

沢木は微笑んでいた。その時の情景を思い描くように、近づいてくるスコールの夜空を眺めながら、幸せそうに微笑んでいた。

『何年先でも彼女が手に入る可能性があるなら、待てると思った。彼女の娘の幸せってやつを一緒に見届けるのも悪くないなって』

『‥せっかくだけど、余計なお世話よ。あの人の、そういうおせっかいな所、大っ嫌いだったわ。ほっといてくれればいいのよ』

声が‥うわずって震えている。

込み上げる想いを、喉の奥で押さえ込むと、棺に横たわったあの人の最後の姿が脳裏をよぎった。

綺麗なままだった。眠っているように。

老いていく事もなく、美しいままであの人は人生に幕を下ろしたのだ。

そう、嫌いだった。憎むほどに。

パパに愛されていたあの人を。

そして、憧れていた。

女として、恋焦がれるほどに、こんな風になりたいと。

『麻理さんは何においてもパーフェクトな女性だったけど、ひとつだけ大失敗したみたいだな』

沢木の意外な台詞に、あたしは彼を覗き込む。

『なに?それ』

『子育てには大失敗だったって事さ。こんなあまのじゃくで意地っ張りな娘を甘やかしてさ』

かっと、顔が熱くなるのがわかるのと同時に、この失礼な男に、反射的に手を挙げて振り下ろしていた。

狙いを充分定めたはずなのに、沢木の顔に当たる直前で手首を捕まれた。

『放してよ』

その言葉とは逆に、沢木はあたしの背中に片手を回すと、ゆっくりと抱き締めてきた。

『なにすんのよっ』

予想もしない行動にパニックになる。

さっき、からかうようなキスをして、誘ったのはあたし。

彼の息が掛かるような距離に、潜り込んだのもあたし。

だから、沢木が少しその気になったのなら、思惑通りといったところなはずなのに

抱き締められてみると、何もかもが大きくて力強い沢木の男っぽさに、尻込みをしてしまった。

だけど、顔色を伺いながら指を伸ばしてきたり、、

余裕もなくキスの続きの行為を期待する、同世代の男の子達とは違う感触があたしを包みこむ。

優しい包容。

ほら、傷ついた鳥を両手で包み込むような‥

膨らませた指の檻にそっと閉じ込められるような‥

『いっぱしのつもりでも、まだまだ子供だよ君は。悲しい時には泣くもんだ』

皆、いなくなっちゃった。

本当のママも、パパも、あの美しい人も。

この腕の中で泣いていいの?

雨が降ってきた。一瞬にして何もかも洗い流すような南の島のスコール。

この激しい雨の音なら、泣き声も掻き消されてしまうに違いない。

誰かに身を任せるって心地良さにもたれかかってみたかった。

沢木の胸におでこを当てると、詰め込んでいたものが弾けるように涙が溢れてきた。

ずっと

ずっと

こんな温もりを探していた気がする。

沢木はずっと黙ってあたしの髪を撫でてくれていた。

震えが止まらない肩もいたわるようにそっと擦ってくれた。

しばらくそうしていて、息も落ち着いてきたところで、急にこんなずぶ濡れになりながら、沢木の腕の中にいる状況が今更のように気恥ずかしくなる。、

そんな気持ちを隠すかのように、彼にポツリと質問を投げかけた。

『‥あの人の‥ママの話をしてよ』

『どんな?』

『馴れ初めとか』

『2年前にたまたま仕事で一緒になったんだ。俺の一目惚れ』

『ママはすぐに堕ちた?』

『いや、手強かったさ‥君の亡くなったパパの事をまだ愛していたしね』

沢木は思い出したように苦笑いをした。

びしょ濡れになりながら、気持ち良さそうに空を見上げた。

馬鹿ね、そんな顔‥あなたもまだママを愛してるって顔に書いてあるわよ。

『再婚する時、もうパパは病気で長くないって、あの人知ってたのよ。あたしも本当のママも知らなかったのに』

『そう‥麻里さんらしいな』

『パパはあの人との結婚生活はたった3年‥少しの間だったけど、幸せそうだったわ』

『麻里さんも幸せだったって言ってたよ。君のパパとの結婚』

『あなたって変な人ね。自分の恋人が前のダンナの事のろけても、嫉妬しないの?』

『そういうところ全部含めて、彼女の事好きになったんだよ』

『それに20歳の娘がいるなんて‥ママが19歳の時に生んだ子供ってことじゃないおかしいと思わなかった?』

『麻里さんならありえるかなって‥』

沢木はあたしに手を取ると、コテージに向かってゆっくりと歩き出した

パパとあの人と沢木。

ほら、こんな出来すぎた恋愛劇。

ずっとこんな愛を垣間見せられてきた。

目の肥えたあたしに差し出される男の子達の腕は、やっぱり物足りなくて違和感を感じてしまうのだ。

誰かと付き合ってみても結局は上手くいかない関係を繰り返すだけだった。

コテージに付くと、先にシャワーを使うように沢木は言った。

あたしは彼の手を離さなかった。

『駄目なの‥』

『え?』

『貴方じゃなきゃ、駄目なの』

『何が俺じゃなきゃ駄目なの?』

沢木は子供をあやすような声色で問い掛けてくる。

『誘うなんて技ないわよ。だってバージンだもん、だから頼んでるの』

あたしは触れる手に力をこめた。

『だって、ママが言ったの、初めての男の良し悪しで女の人生のが決まるって‥あたし、貴方がいいの』

『絹ちゃん‥』

沢木があたしの名前を呼んだ。

初めて名前で呼ばれた。

この人、あたしの名前知ってたんだなんて、この期に及んでそんな事を思う。

だけど、今更に名前を呼んで語りかける沢木の声色が、真剣みを帯びている事に気付く。

『絹ちゃん、言っている意味判っているのかい?それはきっと好きな人を慎重に選びなさいって意味だと思うよ』

『だって、無理だったのよ。付き合った男の子と試してみようと思ったこともあるのよ。出来ないの。怖くて任せられないの。それって、1人じゃないのよ。誰とでも駄目なの』

『だったら、どうして俺ならいいの?変だろ?』

あたしは息を呑んだ。

どうしてって

どうしてって‥

『だって、貴方ならママのお墨付きだもの』

沢木はきょとんとした顔している。

しばらく黙り込んで、そして唐突に笑い出した。

きっと、あたしまた泣きそうな顔をしていると思う。

貴方みたいな大人からすれば、馬鹿みたいに滑稽に映るんでしょうね。

『ごめん、笑ったりして、ここにママがいたら何て言うと思う?それを考えたら可笑しくってさ』

『ママがいたら?そうねあの人のことだから‥』

沢木と顔を見合わせる。

『彼女ちょっと困った顔して、だけど俺の肩を叩きながら言うんだろうな‥君には甘いママだからさ』

『そうね、あたしのおねだりには弱い人だったわ』

『俺,想像しただけで耳元で聞こえた気がする。麻里さんの声‥何て言ったと思う?“優しくしてやってよ”だってさ、信じられないけど麻里さんなら言いかねないよね、こんな突拍子ない事』

そう、ママなら言い出しかねない。頼むわよって‥あたしの為ならば‥。

あたしも笑いが零れる。ほんと笑える。

だけど本気なのだ。泣いて笑いたいほどに切実なのだ。

思い込みだとしても、沢木が欲しかった。

気休めでも、幸せになれる予感の切符を手に入れたかった。

『君にシャンパンを飲ませたのは失敗だったよ』

沢木はそう言うと、あたしの頬にそっと触れた。

『子供には贅沢すぎた?』

ただ、純粋に沢木を見詰める。

咎められ、笑われ、泣き顔を見られて、もう取り繕う余裕もなかった。

『いや、言わなかった俺?シャンパンは女の人を美しく見せる飲み物だって』

沢木は腕の中にあたしの身体を引き寄せた。

『血が繋がってないなんて嘘みたいだ。彼女の服を着て、同じ眼差しで俺を誘うくせに』

沢木の腕の中は生ぬるい雨の匂いがした。

『この島にいる間の仮初めの恋人にしかなれない、それでもいいのかい?』

返事をしなくては‥言葉が上手く出ない。だからゆっくりと頷いて応えた。

ベットに手を引かれながら、雨は止んだのだろうかなんてぼんやりと考える。

濡れた服を引き剥がし身体を重ねれば、それは冷たく、そして熱かった。

沢木の身体の重みを感じる。その重みに手を回せば、それはいつも手にする馴染んだチェロのように心を安らかにする。

子供の頃から習っていたのはヴァイオリンだった。

パパが死んだ年にヴァイオリンからチェロに転向した。

楽器を全身で抱きしめるような感覚に魅せられたから。

沢木にしがみついていると、初めてチェロを手にした瞬間が蘇る。

そして溜息を重ねた音色で、女に変わるこのひと時を奏でていった。

こんな風に抱かれて初めて気付いた。

どうして彼に執着していたのか。

ママの恋人。だから興味を持った。

だけど

沢木を知って‥いや、初めて彼を見た時から、惹かれていたのかもしれない。

だって、ほら、今こんなにも満たされて胸が苦しい。

ママを愛している彼の腕の中で、甘くて切なくて迷子のように途方に暮れている。

この島にいる間だけの仮初めの恋人

そう約束した。

体は手に入れても、心は堕ちてなんてこないのだ。

あたしと沢木は対等じゃない

与えられるだけの関係。

あたしが彼に分け与えられるものなど何もないのだから。

そんなバランスで恋など始まるはずがない。

さっきまでのあたしはなんて無知だったのだろう。

これからは、一人の夜が、凍えるほどに冷たく感じる事だろう。

寂しさに追い詰められた時、もたれかかる胸を探しては孤独を深めるかもしれない。

人を愛する幸せは、失なった時に味わう深い孤独との背中合わせなのだ。

これがママからの最後のバースディプレゼント。

もうバージンではない、初めての男…沢木に抱かれて気付かされた様々な想い。

喜びや哀しみや嫉妬や快楽.

恐れずに味わいなさい。それこそが女を色付ける媚薬なのだから。

ママのそんな囁きが、情事の後の生ぬるいシーツの隙間から聞こえた気がした。

 

 

あの南の島での旅行から6年。一度も沢木と会ったことはなかった。

あれから、誰かを愛した事もあったし、愛された事もあった。

通り過ぎていった何人かの男達。

終わった恋を振り返ってみると、あたしの男運は悪いものではなかった気がする。

その時その時真剣に愛し、壊れる時には沢山の涙を流させる価値があった。

恋と恋の合間の、独りきりの孤独を味わう夜。

そんな時、決まって沢木の事を思い出した

二人で寝転んだビーチの柔らかさ。

移り変わる海の色彩。

初めて男の背中に腕を回した素肌の感触。

それらは眠れない夜の睡眠薬だった。

そして今、再び沢木の目の前にいる。

彼の瞳にあたしはどう映っているのだろうか。

ママの服を着て、たどたどしく彼を誘ったあの頃と比べ、少しはましな女になったのだろうか。

味わってきた。

女の成長と共に降り注いできた媚薬の雨を。

綴ってきた恋の欠片をシェイクして華奢なグラスに注いでみれば、この男を酔わせるようなカクテルは出来上がるのだろうか。

「シンガポールは初めて?」

あたしを見詰めるその眼差しに、懐かしさを隠し切れない様子で沢木は語りかけてくる。

「初めてよ」

嘘だ。音大を卒業する頃、一度来た事があった。

恋人と別れて寂しくて、発作的に沢木のいるこの国を訪ねた。

だけど連絡をしなかった。こんな所まで来ながら、馬鹿みたいだと思ったけれど、また甘えるだけになってしまうと自分を戒めた。

「今回は仕事?それとも‥」

「あなたに会いに来たのよ。渡すものがあってね」

あたしは、すっとテーブルの上に白い封筒をのせた。

「結婚式の招待状なの。来てくれる?」

沢木はゆっくりとそれに手を伸ばした。

「やばいな‥俺、君の花嫁姿なんて見たら泣いちゃうかも」

沢木はそう言うと大げさなジェスチャーでせつなそうに胸をに手で押さえてみせた。

「もちろん行くさ。君のママとの大事な約束だ」

“娘の幸せを見届けてから”

あの言葉が頭をよぎる。

「良かった日取り、あなたの予定に合わせたのよ」

「俺の予定?」

「毎年、ママの誕生日に、お墓に薔薇の花を供えてくれるのあなたでしょ」

「あぁ‥よく俺だってわかったね」

「わかるわよ」

ママがお気に入りだったオペラ歌手の名を持つ薔薇、マリア・カラスを贈る人なんて、沢木に決まっている。

それも、毎年。

「ママの誕生日の前後なら、日本にいるんだろうなと思って」

「いや、1年に1度くらいは日本に帰ろうと決めててさ、麻里さんのお墓参りは自分にとっていい口実って言うか‥そんな用事でも作らないと、なかなかか腰が重くてさ。でも、君の結婚式ならば他の日だって飛んで行くさ」

子供の言い訳みたいに、沢木が慌てているのが可笑しい。

小さな笑いを堪えながら、「ありがとう」と言った。

「どんな彼かな?そのラッキーな男は」

「同じ楽団のファゴット奏者よ」

「音楽家同士か、お似合いだね」

沢木の指がそっと伸びてきてあたしの頭を優しく撫でた。

「絹ちゃん」

久しぶりに沢木があたしの名を呼ぶ。

本当に大事な事を伝えたい時だけ、彼はこんな風に囁くようにあたしの名を呼ぶ。

だから真っすぐ彼を見つめて耳を傾ける。

「結婚、おめでとう」

あたしは微笑んでその言葉を受け止めた。誰よりも、沢木にそう言って欲しかった。

沢木から投げられる優しい祝福の眼差しは、あたしの心を幸福で埋め尽くす。

そして同時に押さえ切れない程の切なさがあたしの瞳を濡らしていった。

溢れてしまった涙を拭うこともなく沢木を見つめる。

彼は少し困ったような顔をして見詰め返してきた。

「今度はあたしが見届けるわ」

「えっ?」

意外な台詞に彼はきょとんとしている。

6年前、抱いてくれと頼んだ時のように。

「今度はあなたの幸せを、あたしが見届ける番だって言ってるのよ」

驚いた顔で彼は黙り込んだ。

彼を幸福に導くのは、あたしでもママでもない。それがあたしを切なくさせる。

だけど心の底から沢木には幸せになって欲しいと思った。

「花嫁の投げたブーケを受け止めた気分だな。あれって男でもいいのかな?」

あたしは「もちろんよ」と片目をつぶってみせる。

目の端に残った涙を沢木は指でそっと拭ってくれた。

そして、真剣な声色で再び「絹ちゃん」と言った。

だから静かに沢木を見上げる。

「そんな風に言って貰えて嬉しいよ、ありがとう」

ママの恋人。

彼を愛していたと思った。

過ごした時間は、南の島でのほんの数日。

幻のような、儚く淡いひと時。

だけど、今でもあの美しい小さな島が、インド洋の蒼い海にぽつりと浮かぶように、

それは、確かに存在した魅惑の日々。

【THE END】

アンサナ:写真(※別窓)

※続編「満月の誘惑

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